家族との生活に慣れたわたしは、ときどきタカシをからかったりしながら時間によって涼しいところを選んで移動しては毎日を過ごしていました。
そんなある日、ママが旅行鞄を出して洋服を詰め始めました。 様子が変なので家族の話を注意して聞いていると汽車にしようか?とかバスの方がいいとか相談しています。 わたしはあまり変化を好まない方なので、やっと落ちついたのに旅行に連れ出されるのは迷惑だなあと思いました。 話を聞いていると長野に行くそうです。そのころは、どんなところか良くわかりませんでしたが、タカシが寝冷えをしてはいけないなどとママが話しているのを聞くと涼しいところのようなので行ってみるのもいいかな?という気になりました。
出発日の朝になりました。 わたしは早起きをしてご飯をたべて出発をまちました。 新宿まで電車で行って中央高速バスに乗るのです。 わたしは、本当は家にいるのが良いのですが、ママとパパがいないのでは食事にも困ってしまいますし、夏の暑さにも閉口していたところなので旅行に行くことにしました。
みんなの準備が出来たところで、わたしは新しく買った篭に入れられて一足先にパパと出発することになりました。 家を出て駅に向かい蕨銀座の入り口まで来たら、パパは駅と反対の国道の方へ歩き出しました。 駅はすぐそこなのにどうしたのかな?変だな?と思いました。 それでもパパは駅を背にしてどんどん歩き、蕨銀座を抜けて中山道に来てしまいました。
パパは「こんにちは」と言って”○○○ケンネル”という名前の店に入ります。 そこには猫や犬が何匹もいました。 わたしには、旅行に行くのにどうしてこんなお店に寄らなくてはいけないのかわかりませんでした。 心配になって耳を立ててパパとお店の人の話を一生懸命聞いていると、パパはお店のおばさんに「よろしくお願いします」と言ってわたしの入った篭を渡してしまいました。 何と!パパはわたしをこの店に置いてきぼりにして自分たちだけで旅行にいくのでした。
わたしは篭の中で必死に声を出しました。 犬なぞと隣あわせで何日もいることはとても出来ないと思いました。 ママやタカシも、わたしが旅行に行かないと残念がるにきまっています。 精いっぱいの声を出して泣いたのに、パパは振り向いただけでとうとういってしまいました。 ペットショップで入れられたのは、横にこわい犬がいるトイレもない狭い檻です。 食事のときと檻をきれいにして貰うときしか声をかけてもらえません。動物が何匹もいるのですから、店のおばさんも手が回わらないのです。 来る日も来る日も店の外を見つめ、家族が迎えに来ることばかりを考えました。 逃げ出して家に帰ろうかと何度か試みましたが、いつも失敗でした。
夜でした。もう駄目かも知れないとかんがえはじめた9日目のことです。 その日もあきらめて寝ようかと思っていたら、遠くからパパの足音がきこえたのです。 確かにパパの足音でした! パパが店の扉を叩いて迎えにきました。 もう寝てしまったのか、店のおばさんはなかなかでてきません。わたは、パパに聞こえるように大声でなきました。 やっと出てきたおばさんにパパがお金を払うのも待ちどうしくて、何度もパパに声をかけました。 檻から出して貰い、抱きついてから篭に入れられてママとタカシの待つわが家にかえりました。