10月のネル物語

 秋も深まるこの頃です。 ふと肌寒さを感じるこの季節になると、ネルは家族の誰かのベッドに上って寝るのが常でした。
 みんなの10分の1の体重しかない自分が上に乗っても平気だと思ったのでしょうか。 ひとりで寝るのが寂しかったのでしょうか? きっと家族をオンドル代わりとしていたに違いありません。 何度追い出しても朝になると誰かのベッドに上っているのです。 ネルの重さに耐えかね、捕まえて湯たんぽ代わりにしても、隙を見ては逃げ出してじきに布団の上に戻っておりました。 去年はとうとうたまりかね、来年はネルにヒーター入りの寝床でも作ってやろうかと相談したものですがその機会はありませんでした。


 ところで、わが家に来てすぐ、ネルはなかなかトイレの場所を覚えることができませんでした。 そうは言っても家族になるための基本のキですから譲歩するわけにいきません。 今回はずっと前のお話しのつづきですから、まだの方は先にばっくなんばーの1月のネルの小屋をご覧ください。

(香水は大嫌い)
 わたしにとって、お風呂場の前は少し暗くて落ちつくうえに、みんなのトイレの扉の横ですからいい場所だとおもいました。 それに一度自分の匂いを付けた所を簡単に変えるわけにはいきません。
 ペーパートイレは紙鉄砲の玉みたいで全然気に入らないのに、お風呂場の前に行こうとすると誰かが追いかけてきてトイレの箱の方に行かせようとします。 そのうち、ママがお風呂場のマットのあったところに、わたしの嫌いな香水をまいてしまいました。 無理にペーパートイレの方に行かせられると、恐くなってどうして良いのかわからなくなってしまいます。 困り果てたわたしは、我慢できなくなると適当な新聞紙とかベランダの角の植木鉢などで用を足すしかありませんでした。
 ところが、まもなくベランダの角がパパにみつかってしまったのです。 そもそも自分が作ったトイレを使わないのでごきげんの悪かったパパは、これをみて大いに怒り柑橘系の香水スプレーをわたしと植木鉢にふりかけました。 何がきらいと言ってオレンジやレモンのにおいが最高に苦手なのに、そのスプレーがわたしの顔にかかったから大変です。 わたしは息もできなくなり、眼は白目になって口からブクブクと泡を吐きだしはじめました。 それを見ていたママももちろんパパも驚きました。 このままでは死んでしまうにちがいないと思ったパパは、すぐお風呂場に連れていってシャワーで香水を洗い流しました。 顔中がびしょぬれになったわたしをママがタオルでくるんでふいてくれましたが、わたしはぐったりとしてしばらく元気がなくなってしまいました。 香水を洗い流すのが遅れたらきっと本当に死んでしまったと思います。
 トイレのにおいのついた新聞紙をペーパートイレ箱の中に敷いてもらって、じきに決められた場所で用を足す習慣がつきましたが、わたしには香水のスプレーをかけたパパを許すことがいつまでもできませんでした。


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