6 月 の ネ ル 物 語


 6月の初日、夏を思わせる晴天に恵まれました。
関東地方では、先月の後半から早くも30度を越える日があったり、大風が吹いたりと変わりやすい天候です。
 美しい花で満ちている初夏の今、日陰に咲くことの多い「ドクダミ」も清楚な白い十字の花を咲かせています。 刺激臭のあるこの野草はあまり人々から顧みられませんが、古くから薬草として役にたっています。



 今月もネルの遺稿を掲載します。 読んでやってください。


(オースター)
 私は自動車に乗るのが大嫌いです。
 自動車はエンジンの振動と音がします。 走っていると予想外の揺れが起こります。
 私たち猫は、自分のペースを守ってゆったりと時を過ごすのが好きなのです。 犬のように騒いだり走ったり、騒々しくするのは良くありません。
 コーヒーの宣伝でも言っている様に「上質な時の流れ」が大切なのです。 なのに、我が家ではしばしば私の気持ちが無視されます。
 パパの運転するオースターは、私よりも何年か後に我が家に来たベージュメタリックのニッサンのセダンで、色の系統としては私と同じ金茶色系です。
 オースターが来てから半年ほど経った時、パパが「ネルを車に乗せよう」と言い出しました。
 「猫は高いところから飛び降りても平気なくらいだから車に酔うことはない。」と言うのです。
 私たち猫は、平衡感覚と運動神経と柔軟性に優れていますが、これが車に酔うのとどう関係するのか全くわかりません! いつもの短絡的な発想で、本当にいい加減だと思いました。 猫は、人間が思う以上に繊細なのです! 体調によっては猫も車酔いするのです!
 理由はともかく、わたしは車に乗せられることになりました。
 車の中は、アイドリングで鈍く振動し、内装の匂いもして嫌な気分です。 人間にはたいしたことが無くても、敏感で繊細な猫にとってはとてもいやなものです。  私は、直ちに匂いを嗅ぎながら歩き回り、とりあえずママのいる後部座席に座りました。
 動き出しました。 わたしはまずエンジンの音に驚きました。 前の方から聞こえるエンジンの音は、野獣がどこか遠くでうなり声をあげているような音を出すので不安になってしまいます。 パパの運転も乱暴です。 揺れるだけでなく、いつどんなふうに揺れるのか予測がつきません。 最初は後部座席にいた私は、後部座席の足下へ移動し、エンジンの音が気になって助手席へ移り、助手席の足下へ潜り込み、さんざん車内を歩き回った結果、わたしの居場所はダッシュボードの上と決めました。 パパは迷惑そうでしたが、そんなことは構っていられません。 外の景色が見えるだけ安心です。
 この間に、パパのひざの上に行って払い落とされたり、ペダルの近くに行こうとして蹴飛ばされたり、ひどい目にあいました。
 後で聞くと、パパは「ネルがペダルの下に入ったらブレーキも踏めなくなる」と肝を冷やしたそうです。
 その後、私が車に乗るときは必ず首輪とヒモをつけられる事になりました。




 ネルが他界して二年、5月30日に我が家に新しい家族が加わりました。
 名前はパスカル、生まれて約1カ月の男の子。 長毛種とアメリカンショートヘアの混じった雑種の捨て猫です。
 捨てられている七匹の子猫を、子ども達が見つけて里親会につれて来てくれたそうです。 子ども達の看護の甲斐なく二匹は衰弱のため亡くなり、助かった五匹のうちの一匹を我が家の養子に頂くことにしました。 養子にするにはもう少し成長してからの方が楽とのことですが、大きくなるのを待てずに育児の苦労覚悟で引き取らせていただきました。
 まだ小さいパスカルは、初めて兄弟と別れ一人になって泣いてばかりいますが、大きくなるのが楽しみです。


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