更新が遅れていた今日、2月3日は雨と風の寒い日となりました。
暦の立春ですが、暖冬の今年もすこし冬らしくなったようです。
昨日撮った梅の花は、良い香りと共に日だまりで咲いていました。
今月もネルの遺稿を掲載します。 読んでやってください。
(とっておきのはなし 4)
わたしに結婚を申し込んだニケは、とても優しいネコです。それに親切です。勇気もあって頼りになります。わたしのことを綺麗で、好きだと言ってくれました。ニケと一緒にいると、家に戻れないことや、家族が迎えに来てくれないことがあまり気にならなくなりました。そして、だんだんと”外で自由に暮らすのも悪くないな・・”という気持ちになりました。帰る家が無いのは不安だし、街には危険もいっぱいあります。悪い人に気を許したばかりに捕まって散々いじめられたネコの話や、犬におそわれたり、車にひかれた話・・・、十分なご飯が毎日あるわけでもありません。でも、自由とネコの仲間は我が家で得られなかったことです。
わたしは、はじめてネコの友達ができ、最高に幸せな気分になっていました。結婚の申し込みを受け、新しい人生を考えました。もう、家になんか戻らなくても良い。”帰れるかどうかわからない家と家族なんかより、新しい生き方を選ぼう”と決めました。そして、わたしはニケと結婚しました。
幸せでした。ニケと一緒にご飯を食べて、一緒にお散歩をして、ひなたぼっこをして、木登りをして・・・・・雨にあたったり、少し怖い目にあったりしてもニケといれば平気でした。
翌日、木陰で昼寝をしていると微かにママの声がしました。遠くのママの声は、「ネルさん、どこにいるの?」「ネルさん、ネルさん出てらっしゃい。」とわたしを探す声です。
わたしは耳をピンと立て、声の方に顔を向け、じっと声に聞きいりました。いま頃まで放っておいて何だ!という気持ちと、迎えに来てくれたうれしさが混じり合った複雑な思いでした。横にいたニケが、緊張しているわたしに気づいて「どうしたの?」と聞きましたが、わたしは「何でもないよ。」と答えました。
ママは何度も、何度も、何度もわたしの名前を呼びながらゆっくりと路地を移動していました。家々の塀に向かって呼んだり、縁の下を覗いたりしながら、繰り返し繰り返しわたしの名前を呼び続けます。わたしは、姿の見えないママの声を聞きながらじっとしていました。
ニケと結婚して新しい人生を始めたわたしは、もう家へ帰るつもりはありません。わたしとニケのいるすぐ近くを、ママが小さなタカシを連れて歩いて行くのがわかります。ママはタカシの手を引きながら、わたしを捜すためにわざとゆっくり歩いているのです。タカシが「ネルさんいないね。」とママに話しかける声が聞こえました。声の様子から歩き疲れているのがわかります。心臓がドキドキしました。今出ていけばママに会える! 家族と離れて半月も経っていないのに、懐かしくて、とても懐かしくて、今にも飛び出してしまいそうになりました。でも、ニケとの生活を捨てることはできません。ママと顔を合わせたら黙って逃げる訳にはゆかなくなります。人間の言葉を話せないわたしには、ママに事情を伝えることができません。もし、顔を見たわたしが逃げたら・・ママとタカシはどんな風に思うでしょう。きっとわたしが家族を嫌いになったと誤解して悲しむに違いありません。そして、わたしが此処にいることがわかれば、ママは心配して何度でも探しに来るに違いありません。
たくさんの思いが心を駆けめぐり、じっと体を固くしていると、ママとタカシはわたし達のいるすぐ側を通り、わたしの名前を繰り返し、繰り返し呼びながら過ぎ去って行きました。
翌日パパが探しに来ました。きっと休日なのでしょう。「ネル、ネル」と繰り返し呼びながら通りを歩いて過ぎて行きました。パパは割と小さな声で「ネル」と呼び捨てにしながら、少し早足で歩いていました。ママに言われて仕方なく探しに来たに違いありません。パパは、わたしの名前を呼びながら街を歩くのが、恥ずかしくてイヤなのに決まっています。わたしは、やはりニケと一緒にいることを選んだのが正しかったと思いながら、少し離れた塀の上からパパの通り過ぎるのを見ていました。
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ネルの小屋ばっくなんばー
今月のネル物語
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