5 月 の ネ ル 物 語


 今の季節、比較的植物の多い蕨の街は花がたくさんで明るく爽やかです。街で見つけた一重のバラが初夏の日差しに映えていました。
 ところで、辻本議員が秘書給与疑惑で辞任しました。与党の男性議員を証人喚問で厳しく追及した直後に、あたかも追求に手心を加えなかった者への制裁であるがごとく告発されたことは、旧守体質を表しているようで何とも釈然としません。日本の政治家の多くは(多分、まじめに政治に取り組もうとする人ほど)活動資金に苦労しているはずで、叩けば埃の少しぐらいはでるのでしょう。自らへのあら探しを恐れて大きな疑惑に立ち向かう政治家がいなくなってしまうのではないかと将来が心配になります。

 今月もネルの遺稿を掲載します。 読んでやってください。


(とっておきのはなし 7)
 わたしは、自由な生活を諦めて家に帰ることにしました。
といっても、我が家との間に立ちはだかる線路を渡ることができません。捜索エリアを変えたのか、家族は探しに来なくなってしまいました。ペット屋にもどれば、とりあえず水と食事にありつくことはできそうです。いやですがペット屋へ戻るしかありません。
夜になって、ペット屋の裏側にたどり着きました。換気口の下からタイミングを計って飛び上がり、壁に爪を掛けてよじ登ります。硬くざらついたモルタルの外壁で爪が磨耗しますが構ってはいられません。手(人間は前足といいます)でしがみつき、足で壁を蹴って換気口の縁にたどり着きました。ペット屋は相変わらず犬の匂いがしますが、我慢するしかありません。しばらく換気口の枠の上から部屋の様子を見ます。犬はすべてケージに入っていて大丈夫です。
床の少し広いところへ、ストンと降ります。残念なことに水もご飯もケージの外にはありませんが 緊張しているので我慢できそうです。
 朝になって、ペット屋の主人が出勤しました。わたしは声を掛けるのが気恥ずかしくて部屋の隅でじっとしていましたが、じきに動物達を見てまわる主人が気づきました。わたしの存在に驚いた主人は、すぐにわたしを空いたケージに入れ、食事のことなどほったらかしで電話機にとんでゆきました。
「もしもし、〇〇〇ケンネルですが・・お宅の猫ちゃんが戻ってきました。すぐに迎えに来てください。今朝出勤してきたら部屋にいるのでびっくりしました。よろしくお願いします。」 20分もしないうちに、ママとタカシがやってきました。ママはわたしの顔をじっと見て余所の猫でないことを確認しました。わたしもママの顔をじっと見つめました。ママの目には涙が浮かんでいます。「ネルさんどこに言っていたの?よく帰ってきたね。」「もうどこへも行ったらだめだよ」と言ってとっても強く抱きしめました。 タカシもわたしを見てネルと呼びかけます。わたしは、家族が探しに来たときに無視したので、少しきまりが悪くて黙っていました。
ペット屋へ連れてこられたときと同じカゴに入れられて我が家へもどりました。わたしは、半月ぶりに戻った我が家の部屋の隅々まで、時間をかけて何度も匂いを嗅いで確認しました。ご飯をたくさん食べたら我が家に帰った安心感で緊張が解け、一挙に疲れがでて長い長い昼寝をしました。


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ネルの小屋ばっくなんばー
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